2006年9月 谷川山系 檜又谷二ノ沢

メンバー:Aさん、ひろた
装備:ザイル8mm×30m
参考ガイド:日本登山大系
遡行図はこちら

以前から気になっていたが谷川山系では全く入ったことの無い檜又谷。
癒し系として二ノ沢を選択。8月上旬に、この週末にお誘いを受けていた事を思い出し
Aさんに声を掛け遡行することにした。

前夜アプローチ
18:46自宅発→(一般道)9:23赤城IC通過→9:43JR岩本駅/10:05同発
→(一般道)23:27茂倉登山道入り口(仮眠)

AさんとはJR水上線の岩本駅で集合。蓬沢沿いの林道沿いは仮眠するには良い場所が
無いので茂倉登山道入り口の広場を目指し、そこで仮眠を取る。

5:55基点駐車場発→6:00檜又谷入渓→6:50二ノ沢出合着/7:05二ノ沢入渓→
9:16 二俣→10:30ラスト3m滝→(12:07二ノ沢頭→13:49稜線→14:00下山開始
14:50蓬峠→18:35林道終点→18:40基点駐車場着) カッコ内怪我による大幅ペースダウン

5時起床。準備を整え、基点となる蓬沢支流黒金沢出合にある取水ダムへ移動。黒金沢出合には木の道標があり
『黒金沢出合』と書いてある。ここで蓬沢をみると取水ダムも見えるので間違うことは無い。ただ、ここの駐車スペース
は2台と丸山谷を渡った所にさらに2台。林道終点はここから700mくらい先で、そこに10台程度のスペースもある。
 ここから檜又谷へは、蓬沢取水口にかかる立派な橋を渡り、踏み跡に沿って進むと、今度は檜又谷の取水口に
出るので、これも真上にかかる橋で横断し、そこから入渓。
尚、檜又谷左岸に一ノ沢出合近くまで踏み跡が伸びていると"日本登山大系"に書かれてあるが、パット見、
見つからないので、ここから入渓した。
 
 二ノ沢出合までは基本的に平凡。南アルプスではないのでそうそう魚影は走らない。一ノ沢出合は潅木に覆われ、
伏流となって出合ようだ。地形が谷筋になっている事から判断するしかない。檜又谷入渓から30分で一ノ沢出合、
そこから20分で二ノ沢出合となる。二ノ沢最初の5m滝が見えるのでこれが目印。前日、多少雨が降ったはずだが、
水量はそんなに多くない。
蓬沢取水口
一ノ沢出合
2ノ沢出合

 二ノ沢最初の5mは容易だが、次の10m滝がいきなりシビア。Aさんが水流右の壁を指差すが、そこを直登しても、
上部に支点となる潅木が無いため、さらに右手前のルンゼから高巻く。ただ、ここも急傾斜のため、Aさんには困難。
私がフリーで登り、上からザイルを投げる。沢床への下降は懸垂無しで降りられる。
 10m滝上の2段滝(5m+7m)は快適。次の7m滝は3級を越えないが、傾斜が立っているため、Aさんには上から
ザイルを投げる。ここからさきも5〜6mの小滝が現れる。
4級レベルはひとつも無いがAさんには、シュリンゲやザイルを必要に応じて出す。
10m滝写真右ルンゼから巻く
2段滝(5m+7m) 
7m滝
5m程度の小滝が続く

 「日本登山大系」には遡行5時間と書かれてあるので、このペースだと、遅くなるかなと思い。ザイル回収している間
行ける所まで先に歩いてもらった。序盤の連瀑が終了すると再び様相は平凡となる。右岸から(1:4)でC沢が出合う先
で本流は10m滝。水流右から取り付き水流を横断そのまま直登。滝上で再びゴーロ帯。その先の8mチムニー滝
直登は難しい。左から巻くが、草付交じりで一瞬嫌らしい。
右岸C沢出合と10m滝
8mチムニー滝

 8mチムニー滝上はちょっとした巨岩帯。『日本登山大系』では小さい滝が数多く書かれていたが埋まってしまったの
だろうか?
 8m階段状滝を右から越え、小滝をいくつか越えると一見嫌らしそうな12m滝。近づいて見ると特に問題は無くフリー
で登れる。AさんもフリーでTRYしたが、最後の一歩が嫌らしかった様でシュリンゲを出した。
 多段30mは何の問題も無く快適。ちょっとしたナメから小滝を越えると二俣到着。
時間は9時15分。。。ザイルをかなり出したので、ペースが気になっていたが、予想よりかなり早く到着。ここは水量の
多い右俣(本谷)に入る。後はナメとスラブだけと遡行図には書いてあったが、すぐにゴーロ状になる。さらにこの先に
遡行図には無い二俣があり、水量の多い右俣に入ったが、すぐにヤブがうるさくなったので、左俣に移動。
8m階段状滝
12m滝 
多段30m

左俣の沢も両側からの笹薮がうるさくなってくると、のっぺりした3m滝。ここを右から
笹を漕いで小さく巻くが、「ひどい蜜ヤブだなー」と言ったのがいけなかったのか、滝上に出るとAさんは直登を試み、
後1,2歩の所でハマッているではないか!!!すぐにお助け紐を出すが、「腕が疲れたー」との事で左岸側の潅木を
跨いだ状態で一旦レスト。。。ここから先の自分の判断力/注意力が足りなかった。シュリンゲで一旦ビレイをして
もらえれば良かったのだが、そのまま、もう一度TRY。後一歩で力尽きAさんの手がシュリンゲから離れ落下。
うずくまる。
 "左足がしびれて立てない"との事、足首は回るが、全く力が入らないらしい。
「チョット休んで」と言うが状況は好転せず骨折の可能性が大。。。沢の終了点はもうすぐなので、上に行くしかないと
判断し、ザイルを出し引き上げを試みる。Aさんが両手右足が使えたことと比較的小柄な女性だった事が幸いし、
なんとか引き上げに成功。
 しかし、やはり足の状況は好転しない。肩がらみ、背負い、等をその場でTRYしたが、膝は地面に付けても大丈夫
と言うことだったので、左膝、右足、左膝、右足と"ほふく前進"の格好で上がってもらう。。私は彼女の荷物も持ち、
後ろから押したり、シュリンゲをつなぎ引いたりとサポートすることしか出来ない。当然亀のようなペースではあるが、
これが一番確実で早かった。。ただ時間は11時前、天気も安定という事もあり、なぜか悲壮感は無かった。。。

幸いなことに滝らしい滝は無く。せいぜいあっても1mくらい。沢は草付スラブと変化。傾斜はそれほどでもなく、
登り易いルートを選択。最後のヤブは腰より低いが、ほふく前進をしている彼女にとっては相当辛かったと思う。
12時過ぎに二ノ沢頭に到着。しかし、稜線登山道はここから登山大系によると40分弱。2,3のアップダウンとラスト
の50mくらいの登りを見てチョット青くなる。。。
ここからは歩きやすい所は背負って行くが、獣道すらない痩せ尾根とコメツガ系のヤブは不安定で危険なので仕方な
"ほふく前進"してもらい、私がシュリンゲで牽引する形を取る。心の中で14時までに稜線登山道に到着を仮目標に
設定。Aさんの頑張りで14時前に稜線登山道に到着。とりあえずこれで"家に帰れる"という安堵感がお互い沸き起こ った。
蓬峠

 さて下山だ。。。
登山道の状態は良いが、蓬峠までは最初25度程度の下り傾斜。背負うとAさんが怖がる。確かに足元はおぼつかず、
笹薮に転倒。しかたなく傾斜が緩むまで"ほふく前進"で下ってもらう。そんなとき二人組の登山者がやってきたので、
事情を説明。とりあえず蓬峠非難小屋まで荷物を持ってもらうことにした。これでかなり楽になり、背負っても60過ぎの
高齢者並みのスピードで歩けた。蓬峠非難小屋到着15時前。
小屋主が居り、「ヘリ呼ぶか?新潟から来るけど。。。呼ぶなら今がリミットだ!」との事。
ここから下山ルートの事を聞くと、ここから下山3時間と山渓の地図に書いてあったと記憶してたが、"林道まで普通の
足で1時間半、道は急ではないがトラバース道"との事なので、二人とも迷わず自力下山を選択。自力と言っても、
先ほどの二人組みの方々が下山方向が一緒との事だったので、必要の無い荷物を私のザックにまとめ、私の車まで
運んでもらう事にした。さらにストック2本をお持ちだったので、それを後日返却と言う事で譲り受ける。
このストックが大きかった。

 両ストックで普通の骨折者が歩くようにAさんがTRYするが、折れた足が全く地面に付けないので歩きにくい事と、
折れた足にかなり響くらしく断念。しかし、長めのテープシュリンゲとカラビナでハーネスをクロスに"タスキがけ"。
これにストックを挿して背負子を作成、これで両手が空き、多少安定して歩行出来るようになる。
 この背負子で一番辛いのは重さ以上に幅1cm程度の細いテープが肩に食い込む事。タオルを一枚間に挟んだが
かなり厳しい。歩くスピードは道さえよければ"遅い人程度"まで出せるのだが頑張って歩いて200〜300m程度で限 界。
さらに、急な所では "ほふく前進"をお願いし、そのたびに20mくらい進んでもらった。これを何度も繰り返えす。
やはりバランスを崩すと建て直しが効かず一回登山道を踏み外し転倒したときは。Aさんにはかなり痛い思いをさせて
しまった。

時間は17時半過ぎ。車を置いた場所と林道終点までの距離が長いものと信じていた我々は、彼女の高度計と地図を
照らし合わせ、もうすぐ林道だろうと思った所でAさんに「先行って車取ってきて」と言われ、車を取りに行こうとしたが、
3分程急ぎ足で下って林道に付かず、途中、登山道に水が流れている所もあり、すぐに引き返しす。
再び”背負い/ほふく前進”を繰り返した。。。蓬谷と檜又谷を分ける尾根がすぐ近くに見えるのだがなかなか林道が
現れてくれない。ヘッドライトを取り出し暗くなりだした頃ようやく"林道まで200m"の看板が現れ安堵。真っ暗になる前に
林道到着!ここで彼女を置き、単独で車を取りに行く。林道終点から車を置いた場所までは1km無かった。
2人組が丁寧に車のリア下に荷物を置いておいてくれた事に感謝!急いでAさんの元に戻る。足を引きずり、
這っている姿がとても痛々しい。。。
もう真っ暗。。。時間は19時前だった。
 
携帯がつながる所まで移動、自宅まで送るつもりでいたが、家族に大宮駅まで迎えに来てもらうということで、
湯沢から新幹線を利用。湯沢駅でJR職員に車椅子を用意してもらい、さらに大宮駅でJR職員が待機してくれるとの
確認を受け、ホームで新幹線を見送る。

ご家族のご協力があり、結果的にその日のうちに地元の病院で手当てを受けられたとの事。。。
また、ご家族から温かい言葉をいただき本当に救われた気持ちでいっぱいです。。。

P.S:こんな結果になってしまったが、二ノ沢自体は初級コース。トラブルが無ければ二ノ沢から稜線登山道まで
   5時間見ておけば充分でしょう。
   Aさんと私の体重差は12〜13kgでしたが、上手く背負えたとしても沢は登れません。
   同じ体重の人は背負う事さえムリと考えたほうがよいでしょう。背負いもAさんの腕の位置ひとつでバランスが崩れるので
   意識の無い人を背負う場合は困難を極めると思います。また、普段筋トレをしている私ですが、
   数度足が吊りそうになりました。一度吊ってしまうと"遭難"に一歩近づくので、遅くなっても休み休み行った方が
   良いでしょう。今回下山できたのはAさんが動けて、膝を使って登れたからです。
   Aさんの少しでも早い回復を願っています。

遡行図




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