2005年8月7日 丹沢 西沢本棚沢

メンバー:現場監督さん、Sakuraiさん
装備:9mm×50m2本、カム、フェルトソール
参考ガイド:東京周辺の沢
概要ムービーはこちら

現場監督、Sakuraiさんと都合があったこの週。
監督さんの希望は東のナメ沢、同格沢、西沢本棚沢だったので”一ノ倉で鍛えているお二人と組めるなら!” 「西沢本棚沢にしましょう」と応えた。
Sakuraiさんは「強いていうなら東のナメ沢。だた覚悟はできております」との事で、まぁ見てダメだったら隣の下棚沢に行くつもりで決行した。
監督さんの03年遡行時の”本棚70m”写真は、どー見ても登れるようには見えない。。。自分で「行こう!」と言いつつスッゴイビビッテいる私は、
私の守護霊さんが見える職場の女性にさりげなく聞いてみると「大丈夫!死なない!ハハハハ・・・」と笑うのであった。。。

AM2:28自宅発→3:52首都高新井宿→4:22用賀IC→(一般道)6:11西丹沢自然教室(アプローチCR-X)
6:50西丹沢自然教室発→7:15下棚沢分岐→7:25本棚下、8:00登攀開始→9:30 2ピッチ目終了
→11:20本棚上13:30稜線着、13:45下山開始→14:30下棚沢出合(→下棚見学)→15:30西丹沢自然教室着
18:30:山北温泉初→23:10自宅着

西丹沢自然教室に到着すると、既に現場監督さんが到着。今回のとんでもない計画にお互いハハハハハ。。。と思わず笑ってしまう。
そこへ、7月の広沢寺でオーバーハング人工ルートを颯爽と登り、”これがクライミングなんだ!”と印象付けさせてもらったSkauraiさんが到着!
このお二人がきっと今日の主役に違いない。

一応、持ってきたガチャ類を確認して出発。畦ヶ丸への登山道が西沢を縫う様に走り、テクテク進むこと30分弱で下棚沢と本棚沢の分岐。ココから本棚沢に入
る。
スタート時の記念撮影
西沢堰堤上の広河原
本棚沢の暗い様相

暗い様相の沢を5分も進むと左右から水が垂直に落ちているのが見えてきた!

監督さんが左を指す。。。

 ど、どーーん! ありえねぇ・・・

70m本棚。。。これまで60本以上沢を登ってきたけど、登ろうとしている滝でこれほど威圧的なのは初めて。。。豆焼沢50m滝モチコシ沢60m滝より
完全にワンランク上! 上部は脆いと聞くが、滝ごと崩れてくるんじゃないかって感じ。でも現場監督さん曰く、今日は条件が良いとの事。。。

とにかく写真だ!写真。。。と一通り撮ってからルートを見る。現場監督さんも前回単独で来たときには、よく見なかったらしい。。。滝を正面から見ると
”最右ルンゼから取り付くのがセオリーでしょう”と全員一致。何しろ滝がでかいので上部の方は難しそー という以外によく判らない。
沢の左右から垂直の滝が見える(クリックして)
70m本棚全貌(クリックして)
上部の方はどこ登るのか見当もつかない。。。(クリックして)
とりあえず記念写真

「1ピッチ目は意外と楽勝なんじゃない!」と現場監督さん。自分も核心は2ピッチ目と読んだ。おそらくSakuraiさんもそう読んだだろう。

監督: 「で、1ピッチ目は誰行く?」
ひろ: 「監督さんどうぞ!」
監督: 「どうぞどうぞ。」
ひろ: 「Sakuraiさんどうですか?」
Saku: 「いや、いいですよどうぞ」

やはり譲り合う・・・と、ココで私が、ピンときた!!!

”記録によると大滝登攀は3ピッチ。2ピッチ目が核心だから、1ピッチ目をやればもう自分の順番は来ない・・・”
            ク・ク・ク・・・俺って頭イイ!!!(^^)v

ひろ:「では、ココは私が!」
他:「おぉー」
と言う事で、しめしめ。。。とザイルを結んで最右ルンゼに取り付く。
1ピッチ目の準備に取り掛かる

最右といっても岩は濡れている。上部は脆いと聞いているが、下部も脆い。残置ハーケンも多いがハンマーで確認しながら登っていく。
”あくまでもフリーで!”なんて考えるのは当然精神衛生状良くない。使える物は何でも使わないと身が持たない。それほどの緊張感がある。。
カムも使う。とにかくランニングビレイは取れるところでは必ず取った方が良い。楽勝かもと思えた1ピッチ目もV+は間違いなくあり、さらに岩の脆さが
加わって思った以上には渋め。1ピッチ終了点はボルト2、ハーケン2程打ってあるテラスだが、チョイト狭く4人立つとキチキチになると思う。
水は滴り落ちてくる感じでやはり夏がオススメだ。
1ピッチ目ルート(クリックして)
登攀開始(カーソルあてて)
1ピッチ目終了点へ(クリックして)

セカンドは現場監督さん。快調に登ってくるものの、『結構、厳しいねー』との事。ココでビレイヤーを監督さんに変わってもらい、私は撮影係りに徹する。Sakuraiさ
んも慎重に上がってきた。
現場監督さん発進!
もう少しです!
Sakuraiさんのフォロー(カーソルあてて)


さぁ核心2ピッチ目。。。ガイドには左の水流側に一旦寄って、そこから斜上するように書かれているが、右ルンゼをそのまま進んだ方がよさそう。
一応「やっぱ右ですかねぇーちょっと左も見てきます!見るだけね!」といって2歩ほどカニ歩きで覗いてみるが、やはり悪そう。

さぁ!現場監督さん、Sakuraiさんどちらが名乗りを上げるのか!

監督:「じゃあ、次もたけちゃんお願いしますよ!ロープ結びかえるの大変だし・・・」
ひろ:「えっ・・・!?」
    「Sakuraiさんは?」
Saku:「どうぞどうぞ」
ひろ:「でも、右から行くなら立ち位置的にSakuraiさんかな?と思うんですけど・・・」
他:「大丈夫・大丈夫!」

まさか、クライマーお二人にお供させてもらっているのに、そーくるとは・・・ 結局。。。最悪の展開。。。
2ピッチ目ルート(カーソルあてて)
1ピッチ目終了点から瀑心側を見る
2ピッチ目ルートその2


2ピッチ目スタート。お二人を避けて右に取り付くのは手間がかかるので、微妙なバランスで1段上がりそこからバンドを伝って右端ルンゼに
入っていく。ルンゼに入ると突っ張りとレイバックでズリズリ上がっていくが途中から完全A0ピッチ。ハンマーでハーケンの利きを確認するが、
古いシュリンゲに全体重をかけ強引に上がる所もあった。相変わらず脆い様相の中でこんな事をするのは精神衛生上よろしくない。
でも何故か突破できた。。。

ルンゼを上がっていくと被った岩の上がテラスになっており、残置ボルト残置ハーケン残置シュリンゲを多数発見。核心が終わったと安堵する。
確かガイドに5級とか書いてあったような気がしたが、水流側にトラバースせず、ずっと右ルンゼを登ってきたからであろうか、それともA0突破だった
からか?ホールドさえ崩れなければそんなに難しいという印象は無く4級+A0くらい? いずれにしろ登れればOKなのでこれで良しとする。
10m弱しか上がらなかったが、ここで一旦ピッチを切る。2ピッチ目終了テラスは奥行きは無いものの多少広め。監督さん、Sakuraiさんも上がってきた。
2ピッチ目スタート
2ピッチ目フォロー(カーソルあてて)
2ピッチ目終了点

ココから見る3ピッチ目は上の方は判らないが、出だしはガバが多そう。この上をちょっと行けば終了と言う印象はメンバー全員が思っていただろう。
時間は登攀開始してから1時間半。3人で3時間という記録を聞いていたので、意外と早いのかも。。。なんて調子付いていたのかもしれない。

監督さんの「ココまで来たらもう一息行っちゃってください!」という言葉に余り抵抗感は無く。
ひろ:「Sakuraiさん、いいんですか?」
Saku:「どうぞ!」きっぱり

という事なので、お言葉に甘え、3ピッチ目も私のリードでスタートする。。。。が、やはり”極悪”と呼ばれる西沢本棚。そう甘くは無かったのだ。
2ピッチ目終了点にて
2ピッチ目終了点から(カーソルあてて)

最初の一歩目、右手ホールドを掴むとその50cm程の岩が動くではないか!明るいメンバーの雰囲気が一気に雲る。あとちょっと力を入れれば
落ちてしまいそうなので違うホールドを選び慎重にスタート。

階段状の壁を突破した後はスタンスが無くなり残置ボルトにヌンチャクを掛けてA0+フリクションで一段一段上がって行くが、最後の残置ボルト
(残り5m程度で登攀終了の位置)の所から安心して足を置けるところはなくなってしまう。 ホールドは!?と思って右の岩に手を伸ばすとと30cm級の岩が
また動く。小さい岩が落ちていった。。。。

ダメか。。。 と思い、そのまま右へ移動。ルンゼの最上部からさらに右にランアウトして潅木帯に逃げようと試みた。しかしここもザレていて、
しかも支点を取れる潅木がまったく無い。仕方なく草っぽいけど丈夫そうな物を3茎位まとめてシュリンゲにくくるが、その先もザレ&ガレで先には
進めそうも無い。(我々の遡行後、このザレを登りつめて脱出した記録あり)
3ピッチ目スタート
序盤A0でここから這い上がる
這い上がった先(カーソルあてて)
ここから逃げることも可能か。


どうしよう・・・と水流側に目をやると残置ハーケンを発見! 右手で今さっき付けたシュリンゲを握り何とかヌンチャクをハーケンに掛ける事に成功。
ザイルを通してホッと一息。。。そしてこのヌンチャクを左手に、シュリンゲを右手に持ち体重移動し水流側(左側)にトラバースを試みる。
そのとき、不意に触れた岩が先ほど動いた30cm級の岩だった!!!

          ”ヤバイ!”

押さえた手を離すともう落ちる。  もうどうしようもない。。。
「ラクッー!ラクッー!」
と言ってから手を離す。すると30cm級の下の岩までもが崩れて落ちていく。まるで土砂崩れの様だ。。。 幸い致命的な物は空を飛んでいったが、
小さいのが監督さんやSakuraiさんに当ったと後から聞いた。下の二人は生きた心地はしなかっただろう。スミマセン
 
もうゴールはそこなのに。。。ホールドを探す。・・・と そのとき右手で掴んでいたシュリンゲが草ごと取れた!!!
”うゎっ!”と左手ヌンチャクにしがみついたら

    「うゎぁーーー!!!」

滑り落ちるというより、完全に重力加速度を体験。一瞬気を失った。。。

「痛ったぁ〜〜。。。!」
現場監督さんの見事なザイルワークのおかげでバンド状の岩で停まった。打ったのは右腰。

「大丈夫かぁー!」
「大丈夫!立てる!」
「セルフビレイ取って、休んでてくれ!」
「了解〜!」

上を見ると5m上にランニングビレイが見える。。。10m落ちか・・・何で動けるんだろう??? 左手には握り締めたハーケンの付いたヌンチャク。
50cmほど下にはシュリンゲが付いた根こそぎ取れた草。
     
            ”まじですかぁー。。。”

とりあえずビレイできるところを探すが、辺りは1枚岩で見当たらない。なぜか歩いてもそんなに痛く無いので、

「もう一度行ってみます!」
「大丈夫かぁ?!
「大丈夫、ごぼうで上がるのでテンションお願いします!」
と一番上のランニングビレイまで再び登り返す。

「はーい!じゃー行きまーす!」と 先ほどは右にランアウトしたところを今度はまっすぐ直登する。しかしスタンスが殆ど無いのは変わらない。
しかも今度はハーケンも抜け落ちているのだ。途中一発ハーケンを打とうとしたが安定して打てずハーケンが”チーン”と音を立てて落ちていってしまった。
もう何から何まで落ちていく感じ・・・
さっき抜けたハーケンは手元にあるが、これを今打つ気にはなれず。「もういいや!」とそのまま直上。ステップは足の親指しかまともに掛からない
小さなものしか見当たらないが仕方ない。それでも何とか先ほどハーケンが打ってあった付近までは登る。やはりこの位置、ハーケンは打てる体勢には
なれない。

もう、右に逃げられず、下にも降りられず。もちろん上にも行けない。

 水流の中のホールド期待し探したが残念ながら無し。。。と幅50cm程の水流をまたいだ所に左足親指だけだが、しっかり置けそうな所を発見。
水流の直撃を逃がしながら恐る恐る左足を乗せたら崩れなかった。。。 左には一歩動けたのだ!

今、70m滝の一番上で水流をまたいだ状態で両足の親指だけで立っている。下から見てる人が居たら唖然とするだろう。

まさにリーチが掛かった!この位置でホールドを探す。左手を伸ばした所にまん丸で滑らかながら、手で握れそうな物を発見。右手側にはホールドは無く、
これを両手で取るしか脱出方法は無い。でももう落ち口はすぐそこ。。。ダブルのザイルが非常に重いので手で1m弱手繰り寄せ体軽くし、
右足を一歩持ち上げ体重を移動。そのまま右手を伸ばす

              ”と 取れたぁー!”

                             登れた・・・


「突破ー!!!」

落ち口近くには良いビレイ点は無く、さらに7m程ザイルを引っ張り大木でビレイを取り、現場監督さんに上がってきてもらう。ビレイ点からは
セカンドの様子は全くわからないがロープを巻き取るペースから苦労が伺える。そして、現場監督さんの顔が見えた!

「これ、ありえない!」

「あーそこ核心なんですよ!」(^^)

またまた現場監督さんが、Sakuraiさんのビレイを申し出てくれ、私はカメラを持ちSakuraiさんの登場を待つ。
やはりラストの核心はつらそう。でも見事に突破。全員が完登。時間は11:20分。実に3時間半近くかけてしまった。とりあえず大休止。。。
現場監督さん到着
sakuraiさんが私と同じ水流跨ぎで突破(カーソルあてて)
締めを飾るSakuraiさん
大滝登攀終了!
抜けたハーケン

。。。もう私は本棚でおなかいっぱいだが、3時間半の大半を濡れながら待っていた現場監督さんとSakuraiさんはやはり不完全燃焼か。
早速、5m滝に現場監督さんが突っ込む。Sakuraiさんも突っ込む。一応俺も頑張った。次の7mナメ状は結構立っていて、
直登は難しそう。一発残置シュリンゲがあるようだが、その先が難しいとの事。取り急ぎ、私は右から巻くが、そうしている間に現場監督さんが
登りきった。Sakuraiさんにザイルを出し。Sakuraiさんも突破。
次の8m倒木のある滝は、どこぞのガイドには”木を利用して登れる”と書いてあるらしいが、どう利用して登るのか全く判らない。どー見ても
直登は不可能。ココは全員右岸を巻く。この先はナメになっていて癒し系の様相だ。
5m滝
7mナメ状滝(カーソルあてて)
8m倒木のある滝
ナメの癒し系になります。

6mスダレ状滝は美しく、快適に直登できる。こんな滝もあれば、あんなすっげー滝もあるんだなーと感心してしまう。

この滝を越えると二俣になるが、ガイドとは逆に右に入る。こちらは滝も無く。特に記するものは何も無かった。いくつも二俣が現れるが、
水の多いほう&明るい方を選ぶ。。。途中から尾根にあがり15分。稜線登山道に出た。
6mスダレ状滝
源頭部
涸れた二俣を右に入る

下山ついでに折角なので”下棚45m滝”を見に行く。さすがに本棚を登った直後なので、プレッシャーはそれほどでもない。
ガイド本『東京周辺の沢』にある写真は上部に行くほど、傾斜が緩くなっているように見えるが、実際の物は殆ど傾斜は一定。しかもかなり立っている。
所々に残置ハーケン、ボルトが見られる。最上部がのっぺりしており、難しそうだ。
 しばらく滝を見ていると、現場監督さんが突然
            「よし!見極った!!!」
                                 「おぉ〜〜!さすが監督さん!」
                               
 下棚沢遡行の際は、現場監督さんが ”連れて行って” くれそうだ!!!
下棚45m(クリックして)
ルートを探す
出だしの感触を味わう(笑)


P.S:本棚は本当に脆いので、かつてはスタンスがしっかりしていてハーケンが打てたところも今ではスタンスが崩れハーケンが打てなくなった。
   という所もあると推測する。
   実際『東京周辺の沢』では2ピッチ目は一旦水流側に近づくと記されているが、このルートは危険そうだった。核心は3ピッチ目の最後5m。
   ハーケンが抜けた為、ココで落ちると10m落ちる。もしこれから行くのならば最上部でボルトを3本くらい打つ覚悟が必要か。
   ザイルは45m以上持って行けば2ピッチで抜けられます。

   そういえば、職場の女性が 「大丈夫!死なない!ハハハハ・・・」の意味。。。こういうことだったのね・・・ハハハハ・・・(^^)ヾ
 



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